【ワイード累計5000教室導入突破記念】なぜ黒板屋がプロジェクターを開発したのか、その経緯についてお話します。

創業百年黒板屋四代目の奮闘記 #12

こんにちは。サカワトシタダです。会社の中に坂和姓が3人いるので、社内メッセージツールでの表示名はこのカタカナ表記にしています。カタカナだとちょっと変わった人のような印象を持ってもらえる気がしていて、実はすこし気に入っています。笑
幼少期から人と違っているということに魅力を感じていて、みんなと同じものや流行っていることにあまり興味を持つことありませんでした。学校も決まった時間に毎日いくことも嫌だったし、写生大会でみんなで同じ風景を書くことなんて、もう信じられないといった感じです。小学校のサッカーチームに入ったときに好きに選んで良かった背番号は「5」(Jリーグ開幕やキャプテン翼ブームで、ほとんどの子は9,10,11番を選んでいました)。「ほんとにこの番号でいいの?」と何度も言われたのを覚えています。
今思い返すと当時の義務教育の一部は僕にとっては苦痛だったのかもしれません。(という体にして、大人になって学校の成績が悪かったことの言い訳にしているのです。大人は自由です。)
どうもみんなが向いている方向とは逆に行きたくなる天邪鬼な人間です。

その考えは今でも同じで、流行りとか言われるとどうしても乗り切れないし、そこに行きたくない性分が出てしまい、ビジネスでも良いのか悪いのか世の中の当たり前になっていることを疑って、自分しか見れない世界を作ってやろうと、意気込みます。そしてだいたいは失敗すると。
しかし、また成功することも数十回に1度はあります。それがこの数年でいうとウルトラワイドプロジェクター「ワイード」という製品です。タイトルにもある通り、2022年夏で導入累計が5000教室を突破しました。

ウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード プラス」
累計台数5000台突破
ワイードの製品ページより。導入台数を随時更新しています

弊社はずっとアナログの黒板を作り続けて102年になりますが、今やワイードはメイン商材の一つとなっています。実は発売当初、自分自身でもまさかここまで成長するとは予想していませんでした。
そこでせっかくの節目なので、なぜ「黒板屋がプロジェクターを開発したのか」というテーマで少しお話してみようと思います。

教室に設置されたTVモニター
電子黒板が導入され始めた当初

まず我々が作っている黒板というものは数十年の間、姿形が変わらないものとして教育の世界をずっと支え続けてきました。しかし書いて消せるというシンプルな製品のため、書き味や耐久性を上げる以外に大きな機能アップができなかったため、仕事を受注するには価格で他社と差別化を図っていくしかなくないというのが実態です。もちろん低価格化というのも企業努力の一つですが、そこだけでは打ち手が少なく長続きはしないので、何か新しい価値を見出して、黒板のアップデートをしていかなければなりませんでした。
そんなさなか教育業界では、電子黒板と呼ばれる製品が開発され、学校に導入されていく流れがありました。黒板をこれから代替する新時代のものとして世間を賑わせて、各メーカーさんが一斉に商品をラインナップし、2009年のスクールニューディール構想をきっかけに業界の中でブームが巻き起こります。これらを導入すれば新しいみらいの教育ができる!と、文科省が予算化をして全国に導入が進みます。

しかし期待とは裏腹に、学校の現場では「使い方が難しい」「教室のスペースがない」「黒板との相性が悪い」「画面が小さい」などの理由から使われなくなり、ついには埃をかぶってしまう、というケースが見られました。かくいう弊社でもこのような電子黒板を扱っていて、これがこれからの新しい黒板だ!と期待をこめて、頑張って販売をしていたのですが、使ってくれる学校と使ってもらえない学校がハッキリと出てしまい、授業の中心で使われるもの・黒板を代替するもの、という当初の期待は脆くも崩れ去ってしまいます。このままではダメだと思いました。
もちろん国の施策として予算が付いているのでお問い合わせは多く頂くのですが、結局使われなくなるのであれば何のためにやっているのか分からないですし、現場の先生を混乱させるだけだと反省しました。そこで「本当に使ってもらえる製品を作らなければ」と思い直し、真の“みらいのこくばん”を作る決意をしました。

改めて電子黒板の使い勝手が悪いと言われる部分を分析した結果、
〇使い方が簡単 〇場所が邪魔にならない 〇黒板と連携しやすい
という今までの黒板が中心の授業スタイルを大きく崩さない、しかし少し未来的で便利になる製品ができれば、先生たちに使ってもらえるものになるのではないかと考えました。
つまりは黒板に完全に代わるものを開発するのではなく、黒板の良い部分を伸ばせる提案をするべきではないかと思い直したのです。

そんなときに、2013年に東京駅のプロジェクションマッピングの映像をたまたま見ることになります。
100年前に建てられた歴史のある駅舎にプロジェクターで映像が投影され、実在する壁や窓と美しい映像が組み合わさり、まるで歴史と未来が行き来するような非常に不思議な体験を目の当たりにして、アナログとデジタルの融合したときの感動とそのワクワク、一気に可能性が自分の頭の中でブワーっと広がり、衝撃を受けました。
「やりたかったのは、まさにこれだ。」
黒板に直接プロジェクターで投影し、チョークの板書とデジタルの映像を組み合わせ、
黒板の昔から培われた良い部分にプラスして、デジタルで付加価値をつけて進化させるという融合したもの。それが 黒板(アナログ)×デジタルという考え方でした。

プロジェクターで黒板に映像を投影する
プロジェクターで黒板に映像を投影する
画像・動画やガイド線を黒板に直接映すことが画期的でした

長文やよく使う図や画像などはあらかじめ用意しておいて、チョークで0から書くのではなく必要な部分だけ板書していく、というスタイルができます。
これは、
・簡単に使える(今までの授業のスタイルを大きく変えなくてよい)
・場所が邪魔にならない(電源を消せばすぐにただの黒板に戻れる)
・黒板やチョークと連携しやすい(既存の黒板をそのまま使える)
という3つのポイントをクリアしています。
この発想から製品化されたのがハイブリッド黒板アプリ「Kocri」です。
このアイデアは当時ありそうでなかったものとして教育業界で受け入れられ、一定の評価を得ることができました。黒板にプロジェクターで投影してチョークで書き足す、というスタイルを分かりやすく業界に打ち出したのは私たちが初めてだと自負しています。今ではこの授業スタイルは定番となっています。

しかし、このアイデアを形にはなったものの、もう一つ足りないものがありました。それが今回のメインテーマであるプロジェクターです。
画像を見ていただくと、プロジェクターの投影できる範囲が真ん中に限られています。

従来のプロジェクター_黒板の一部分にしか投影できていない
黒板の一部分にしか投影できていない

これは映像のアスペクト比(縦と横の比率)の関係で、一般に流通しているプロジェクターは4:3や16:9といったサイズのものがほとんどで、黒板に投影するとどうしても小さくなってしまい、左右まで映像が届きません。
黒板の端から端まで投影できるものがないと、結局は本当の意味での黒板×デジタルの授業は実現できないだろうと考えました。
そこで開発に着手したのが、ウルトラワイドプロジェクター「ワイード」です。

こだわったポイントは3つ。
①投影距離
➁投影サイズ
➂授業シーンによって使い分けられる投影方法

まずは①投影距離。
例えば、映画館のようなプロジェクターであれば、非常に大きく映すことはできますが、あくまでもそれは観客の方が座って鑑賞するという状況で、館内もそういう用途で設計されていますが、教室では先生や生徒が教室中を動きますので、スペースを取らない、影が映らない、配線ケーブルなどが邪魔にならないために、1m以内で投影できる超短焦点モデルがベストです。また黒板の上部に設置できるようにして、毎度授業の開始の時に位置を合わせたりする必要がない準備の手間が掛からないものにする必要があります。
大きく映したいけど、短い距離で映すということは、距離を離せば離すほど大きく写すことができると言うプロジェクターの特性上、かなり難しい技術を要します。なおかつ、壁に設置するものなので筐体も大きすぎては圧迫感が出てしまうので、軽量でコンパクトなボディにすることも求められます。
まずはそれを追求した結果、焦点距離 90cm以内、重量5.7kgという非常にスリムな設計に辿り着きました。

短い距離で投影できるプロジェクターワイード
短い距離で投影できるワイード

次に➁の投影サイズ。
実は黒板の縦の長さ(1200mm)というのはどのメーカーでも規格品は決まっているため、投影できる範囲には限界あります。大きくしたいがため、黒板からはみ出してしまっては、意味がありません。
縦サイズを元に、一般的な4:3のプロジェクターで投影した場合、W(横)1600mm×H(縦)1200mmとなります。できる限り黒板サイズに映せるものを探していたところ、ウルトラワイド16:6というアスペクト比に投影できる技術を発見しました。

当時制作したワイードのPVは大きな反響を呼びました

これによって、アスペクト比16:6、Max 3200mm×1200mm 最大130インチという見たことのないほど大きく写せるプロジェクターが出来上がりました。
これはちょうど4:3の2倍の大きさ、2画面分のサイズになります。
元々こういったワイドに映す技術はあったものの、一般には使える場所や用途が限られていて、半分眠っているような技術だったのですが、黒板という同じように横長のものに映すことによって、初めて真価を発揮することができたのではないかと思います。

プロジェクターワイードのアスペクト比解説図
プロジェクターワイード_黒板サイズ_女子美大付属中高
ワイードの導入事例より(女子美術大学付属高等学校・中学校様/2021年)

ここまで試作が出来上がり、2015年に初めて実物を目の当たりにした時、そのインパクトに興奮したのを今でも覚えています。「これは、学びや黒板の在り方がきっと変わる」と感じました。
よし!これはいける、ベストなものができたと息巻いていました。
しかし、実際はこれで完成とは簡単にはならなかったのです。

ある日、試作機をもって自信満々に学校の先生や有識者の方にお見せしたのですが、
「面白いけど、黒板サイズに大きく映すだけだと利用シーンが限られる」
「板書を書くスペースが無くなって、ずっと使って授業をするイメージが沸かない」という意見をもらいました。
確かに大きく映すことだけを追求した結果、インパクトやコンセプトだけが先行して、毎時間使用できるもの、授業のあらゆるシーンで使えるものになっていない=高額を払って購入してまで欲しいものにはなっていない、というご意見でした。おっしゃる通りだと思いました。

まだまだ追求する余地があるぞ、と気持ちを入れ直して、開発検討したポイントが
最後の➂つ目、授業シーンによって使い分けられる投影方法 です。
改めて授業での活用シーンをイメージしたところ、通常のプロジェクターを使う場合、壁に付けて位置を固定してしまうと決まった場所にしか映せないというデメリットがあり、持ち運び用のプロジェクターになると毎回映像の調整が必要になってしまう。
そこで、本体は固定されているけど、教科や授業の場面によって映像の位置を変えることできれば、有効なんじゃないか?そういうプロジェクターは世の中にないな、という新たなアイデアが出てきました。
そして考えたついた機能が、リモコンで簡単に映像を左右に動かせるデジタルスライド機能です。

プロジェクターワイード_デジタルスライド機能

この機能は左に板書したいときは右側に映像をスライドさせる、右から板書をしたいときには左側にスライドさせるということが授業シーンによって自由に変えることができます。画角やタッチペンの位置もズレないので調整する必要もありません。
(このデジタルスライド機能は、実は弊社の特許として認可もいただきました!特許番号:6608080)

黒板いっぱいにワイドに映す時もあれば、小さく映しておいて左右に振るということができるので、これでようやく授業の様々な利用シーンで使えるプロジェクターが完成です。現場の先生方の声というのは本当に確信を突く良いご意見が頂けます。

こうして、ようやく2016年にワイードの初号機が発売になりました。
当時の展示会での反応は正直驚かれる方が多く、すぐに受け入れて飛びつく方が少数でした。
当然、こうやって製品が出来たからと言っても、売れるわけではない。
発売してからがスタートラインですから、ここから市場に受け入れられるために、機能改良をして製品をアップデートし、地道な営業活動やPRを行い、分かりやすいデモのやり方を模索して、設置方法を工夫し、不具合のサポートをしていき、日々どうやったら購入してもらえるかチームでずっと考えてきました。
その結果、皆様のご愛顧と従業員の日々の積み重ねの努力のお陰で、今日に至るまでに累計5,000教室に導入することが達成できたのです。
新製品のPRについての具体的なノウハウや営業手法の重点ポイントなどは改めて別の機会にまた触れたいと思います。

いかがでしたでしょうか。黒板屋サカワとしてのチャレンジの姿勢が少し垣間見て頂けたのではないでしょうか?
そしてちょっとワイードに興味を持ち始めていませんか?笑
ぜひいつでも実機デモの依頼お待ちしおります。弊社のデモスペシャリストが感動体験をご提供します。今後ともご声援のほど、よろしくお願い致します。

では、また! サカワトシタダ

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この記事を書いたひと

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坂和 寿忠

株式会社サカワ4代目社長の坂和寿忠(トシタダ)です。愛媛県出身、1986年生まれ。大正時代に黒板製造業でスタートした弊社は創業100年を超え、教育分野という土俵はそのままに、今ではアプリを制作し、学校用プロジェクター「ワイード」を全国展開しています(今もグングン導入台数増加中)。 “日本一面白い黒板屋さんになる“ために面白いアイデアや仲間をいつも探しています。「こんな物を一緒に作れないですか?」「こういうこと出来ないですか?」なんていう面白いお話があればいつでも大歓迎です!FacebookやTwitterからメッセージお待ちしております。では、また! 「黒板屋四代目への直接相談フォーム」はこちら

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