2023年4月12日

【導入事例】「進化した黒板」による授業スタイルの「自然な変化」(宮城県岩沼市立岩沼西小学校)

宮城県岩沼市は、仙台駅から電車でおよそ20分の通勤圏で、仙台市のベッドタウンとなっています。子育て世帯が、住宅を求めて外部から流入することもあり、教育に対する意識の高い地域です。

岩沼市では、すべての市立小中学校に次のようなICT機器を配備しています。

教員:1人1台の授業・校務兼用iPad
児童・生徒:1人1台の学習用iPad(自宅に持ち帰り可)
教室:ウルトラワイドプロジェクター「ワイード」、液晶ディスプレイ、Apple TV
家庭:Wi-Fi設備のない家庭にはモバイルルーターを貸与

アナログとデジタルの効果的な連携

岩沼市立岩沼西小学校では、ワイードを使ってデジタル教科書やデジタル教材を黒板に投影し、そこに板書をすることで授業を進めるのが一般的になっています。黒板というアナログ教具から、デジタル教具にいきなりスイッチするのではなく、黒板とプロジェクターを組み合わせて使うことで、アナログのよさとデジタルのよさの両方をうまく活用しています。

算数の授業では、習熟度別授業が行われています。児童にはタブレットドリルの課題が与えられ、教員は多くの生徒がつまずいている問題を黒板で解説。聞きたい児童だけが集まります。
算数の授業では、習熟度別授業が行われています。児童にはタブレットドリルの課題が与えられ、教員は多くの生徒がつまずいている問題を黒板で解説。聞きたい児童だけが集まります。

黒板にデジタル教科書の演習問題を投影し、教員がその解き方を教えていきます。投影エリアを黒板の半分程度に限定することで、空いたスペースは通常の黒板と同じように板書をすることができます。教員はここに重要な公式や計算過程を板書していきます。

また、投影部分もチョークでの上書きが可能です。特に赤のチョークはプロジェクターの光の下でも目立つため、図形問題の補助線などの重要なヒントを強調することができます。

教員の解説を必要としてない児童は、タブレットドリルを自主的に先に進めます。
教員の解説を必要としてない児童は、タブレットドリルを自主的に先に進めます。

ワイードと黒板の組み合わせは、教員にとっては、まったく新しい機器というよりも「進化した黒板」という感覚です。そのため活用の敷居が低く、利用頻度は異なるものの、若手からベテラン教員までがワイードを活用しています。岩沼西小学校の長尾純教諭はこう語ります。

「以前は、見せるものをあらかじめ準備をしておき、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)などを使うしかありませんでした。それが今はすぐに見せることができます。児童のノートの写真を撮って投影する、また児童のiPadを投影するということが瞬時にできます。授業の事前準備の時間は大幅に短縮されました」

授業のスタイルも、ICT機器の導入により、ごく自然に変化をしています。長尾教諭の算数の授業では、習熟度別学習が行われています。デジタル演習問題を解く課題が与えられ、それを各自が自分のペースで進めます。教員は机間指導をして、多くの児童がつまずいている部分を発見すると、声をかけて黒板で解説をします。しかし、児童全員が聞いているわけではありません。解説を必要としている児童だけが黒板の前に集まって教員の解説を聞きます。それ以外の児童は先の演習問題に取り組んだり、同級生同士で教え合ったりします。

ノートに書いた考え方の過程をiPadで撮影し、すぐに黒板に投影。ワイードでは、黒板の左・中央・右への投影をリモコンで簡単に切り替えることができ、映像と板書を共存させることができます。児童に考え方を説明させ、クラス全員で考え方を共有します。
ノートに書いた考え方の過程をiPadで撮影し、すぐに黒板に投影。ワイードでは、黒板の左・中央・右への投影をリモコンで簡単に切り替えることができ、映像と板書を共存させることができます。児童に考え方を説明させ、クラス全員で考え方を共有します。

児童それぞれが異なる演習問題に取り組んでいるため、伝統的な一斉授業中心の教室というより、コーチのいる自習室のような雰囲気です。これで授業は散漫なものにならないのでしょうか。

「習熟度別授業で効果をあげるには、まず何の勉強をし、何を目標にするのかを、児童にはっきりと意識をさせるということが何よりも大切です。児童たちがやるべきことがわかっていれば、授業は自然に流れていきますし、学習効果は非常に高くなります。次は何をすればいいですか?と児童に尋ねられるのがいちばん怖い(笑)。それは目標設定に失敗をしたということですから。そういう言葉が出ないように授業を設計しています」(長尾教諭)

長尾教諭は昨年から小学校5年・6年の算数専科教員となり、「まだまだ授業は手探り。子どもたちと相談しながら授業の形をつくっています」と言います。習熟度別授業が効果をあげているポイントはここにあるかもしれません。

「何を知りたい?と子どもたちに聞くこともあります。先生の解説がいらない時は補充問題を先に進められる?と尋ねると、できますと答えてくれます。そういう子どもたちとの了解のようなものがあって、授業が成り立っています」(長尾教諭)

ICT機器を導入してアナログからデジタルに一気に切り替わるのではなく、黒板が進化してアナログとデジタルが連続をしながら変わっていく。授業の形も無理のない範囲で自然に変化していっています。

岩沼市立岩沼西小学校・長尾純教諭。ICT機器を活用し、習熟度別授業に挑戦しています。まだまだ手探りの段階で、授業スタイルは児童たちと相談しながらつくっているそうです。
岩沼市立岩沼西小学校・長尾純教諭。ICT機器を活用し、習熟度別授業に挑戦しています。まだまだ手探りの段階で、授業スタイルは児童たちと相談しながらつくっているそうです。

根底にあるのは、教育委員会と学校現場の密な連携

岩沼市の小中学校は、全国平均から見てもICT機器が潤沢に備えられています。教員用のiPadは岩沼市の予算、児童・生徒のiPadはGIGAスクール構想による国の予算で賄いました。その他のプロジェクターやiPadの有料アプリも市の予算で賄っています。どのようにして、予算を捻出しているのでしょうか。

岩沼市は市民の教育意識が高く、議会も市民も教育に予算をかけることに肯定的であるという背景があります。岩沼市の少子化は全国平均から見ると減少率が小さいですが、それでも少子化が進んでいる中で、教育予算は据え置く方針をとっています。一人の児童・生徒にかけられる予算は増えていくことになります。

岩沼市教育委員会の千葉雄太主査は、平成25年に就任した百井崇教育長の存在が大きかったと言います。百井教育長は就任後、大胆な改革を行なっていきました。特に重要だったのが、「割愛人事」を進めたことです。割愛人事とは教育委員会の事務方に行政の人材ではなく、現役の教員を出向させる形で任命することを指します。そのため、学校現場では教員が減り、追加の人件費も受け入れた自治体が負担することになります。一般的に行政は追加の人件費を負担し、人事異動の手続きも複雑であることから、割愛人事にはあまり積極的ではありません。しかし、百井教育長は、教育委員会の中に学校の業務を知っている教員出身者を増やしていったのです。現在、20名ほどの事務方がいて、そのうち6人が割愛人事で任命された現職教員です。

これが大きな改革となりました。教員出身という教育現場を熟知している人材が教育委員会にいることで適切な判断ができるようになったのです。また、学校にいる教員はつい最近まで同僚だったわけで、教育委員会と学校現場の間で本音のコミュニケーションが可能になります。この割愛人事を活用した改革で、教育委員会と学校現場が同じ方向を向いて前に進める体制が整いました。

岩沼市は市民の間に教育に対する理解があり、また、企業誘致も積極的であるため企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)などにより、市の規模から見ると予算は潤沢です。しかし、無限にあるわけではありません。それでいて、授業支援アプリ(ロイロノート)、タブレットドリル(東京書籍)、プログラミング教材(ライフイズテック)、タイピング学習(らっこたんタイピング)、動画英会話学習(English Central)など豊富なアプリ・サービスを導入しています。どのようにして、限られた予算を活用しているのでしょうか。

「新しいアプリ・サービスは教員から要望が出ることも、教育委員会の方から推薦することもあります」(千葉主査)

いずれの場合でも、岩沼市教育員会では導入するアプリ・サービスに最長1年間の無料トライアル期間を設けるように交渉をします。これにより、まずは予算をかけずに学校現場で使ってもらい、教員による評価をしてもらいます。その結果によって、採用の可否を判断するなど、よりよい導入に向けて教育委員会と学校の教職員とがしっかりと話し合いを行い、予算面について市の財政担当と協議、調整を行うことで、市の限られた予算から新しいアプリ・サービスへ配分することが可能となっています。

すべてをタブレットにするのではなく、紙のノートも併用しています。作図が必要なもの、計算過程を残したいものはノートへ。必要があれば、iPadで撮影し、黒板に投影することができます。
すべてをタブレットにするのではなく、紙のノートも併用しています。作図が必要なもの、計算過程を残したいものはノートへ。必要があれば、iPadで撮影し、黒板に投影することができます。

岩沼市の小中学校のICT教育が成果を出している大きな理由が、教育委員会と学校現場の密な連携ができていることです。例えば、コロナ禍の間、家族が陽性者となったある児童は、濃厚接触者扱いとなり、通学ができなくなりました。現場の教員は、その児童の席にパソコンを置いて、リモートで授業に参加させようと発案しました。そんなことをしてよいものか。学校が教育委員会に問い合わせると、教育委員会は「問題ありません」と即答しました。このような事態は想定済みで、学びの機会を保障するのが教育の責務なのだから問題なしと、教育長とも協議して事前に対応を決めていました。この教育委員会の判断の早さが、学校現場の改革を加速させています。

教育委員会、学校、そして市長部局、市議会、市民、保護者が、「子どもたちにとって、何がいちばんよいことなのか」を考えられる体制ができていること、その上にICT機器があり、教員たちの努力がある。これが岩沼市のICT教育が成果を出している最大の理由です。


【導入事例】iPad×ワイードが実現する「子どもの思考過程の見える化」[岩沼市事例 後編]へ続く

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製品詳細現行モデル名称:ウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード プラス」
型番:SP-UW4000
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