2022年夏、愛媛県東温市では市内の全小学校にウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」と「映写対応ブルーグレー黒板」が導入されました。GIGAスクール構想により1人1台端末が普及する中、限られた授業時間内でいかに「主体的・対話的で深い学び」を実現するかが多くの教育現場で課題となっています。
前編では、弊社代表の坂和が東温市立川上小学校を訪問し、第5学年・算数の授業(教科横断型授業)に密着。ICT機器を日常的に使いこなし、「無駄な時間を減らして対話を生み出す」池田先生の授業スタイルから、明日からの教育現場に活かせる製品活用のヒントを探ります。
【基本情報・取材協力者】
- 導入先:東温市教育委員会 愛媛県東温市立川上小学校
- 導入機器・サービス:ウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」、映写対応ブルーグレー黒板
- 取材協力者:東温市立川上小学校 第5学年担任 教諭 池田先生、5年生の皆さん(2026年3月時点の情報です)

導入前の課題:板書の「背中を向ける時間」とモニターによる「視線の散漫」
現在、全国の学校でICT化が急速に進んでいますが、機器の扱いに戸惑ったり、従来のアナログな黒板との効果的な使い分けに悩んだりする教員は少なくありません。川上小学校で5年生の担任を務める池田先生も、かつてはICT環境がない教室で授業を行っていました。
ICT機器が導入される以前の授業スタイルや、当時の課題について、池田先生は次のように振り返ります。
「昔は、授業で必要な情報はすべてチョークで黒板に書いていました。そうすると、どうしても板書をするために児童へ背中を向ける時間が長くなってしまいます。できればずっと児童の方を向いて話したいという思いがあったのですが、当時は仕方がありませんでした」
また、以前赴任していた学校では、教室の端にテレビモニターが設置されていましたが、そこにも物理的な限界があったと言います。
「テレビモニターは端にあるため、私が話している時とモニターを見る時で、子どもたちの視線が大きく動いてしまいます。あちこちに視線が動くことで、集中力が途切れやすくなるという課題を感じていました」

導入の決め手:子どもたちの視線を集めることができる大画面

2022年夏、東温市教育委員会の採択により、川上小学校をはじめとする市内の全小学校にサカワのウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」とブルーグレー黒板が整備されました。ワイードの最大の特徴は、黒板の中央から全体へ、ロスなく大画面の映像を投影できる点にあります。
本校ではほぼすべての授業でワイードをごく自然に活用しています。
「異動してきてワイードを見た時は初めてすぎて『なんだ?』とも思ったのですが、子どもたちがすごく使い慣れていて、すでに馴染んでいました。使い慣れてくると『こんな使い方もできるんだ』と新しい発見があり、今ではワクワクしながら使っています」

実際の授業では、プロジェクターが特別なツールとしてではなく、文房具の延長のように使われていました。
「基本的にはほとんどの授業でスライドを映したり、デジタル教科書や動画を見せたりと、その授業に応じて必要なものを活用しています。子どもたちにとっても『あるのが当たり前』の環境になっていますね」

黒板に馴染む「デジタルスライド」と分割表示
実際の算数の授業(単元:「割合のグラフを読み取る時に大切なこと」)を拝見すると、プロジェクターで投影されたデジタルの画面と、池田先生がチョークで書き込むアナログな板書が、違和感なく見事に融合していました。その秘訣は、先生独自の教材づくりと、ワイードの機能をフル活用した工夫にあります。
「パワーポイントでスライドを作る際、背景を黒にして、白文字で作成しています。そうすることで黒板にしっかり映り、機械的な感じになりすぎず、自分がチョークで書いたアナログの文字ともマッチするんです」

さらに、ワイードならではの「投影サイズや位置の自由な変更」も日常的に行われています。算数や社会では左から右へ板書するため投影画面を右側に寄せ、国語では右から左へ板書するため左側に寄せるなど、教科に合わせてリモコンを見ずに素早く切り替える姿が印象的でした。


「今日の授業では、タブレット上でグループで話し合う時間を多く取りました。同僚の先生に教えてもらったのですが、ワイードの画面を分割し、左にスライドショー、右に子どもたちの意見がリアルタイムで反映されるブラウザ(ロイロノートなど)の画面を並べて見せています。自分のタブレットで他の子の考えを見つつ、前に映して全体でも共有できるので、話し合いがとても深まります」
なお、こうした教材は毎回ゼロから作るわけではなく、学校のサーバーに蓄積された他の先生のデータを流用・共有することで、授業づくりの負担軽減と質の向上を両立させています。
子どもに向かって語りかけ、一緒に板書を作り上げる

事前準備したデジタル教材をワイードで投影することにより、授業の進行は劇的にスムーズになりました。最大の成果は、「教員が子どもたちと向き合う時間」が圧倒的に増えたことです。
「見せたいものをあらかじめ準備しておけば、板書のために背中を向ける時間が少なくなります。一番授業で考えさせたいところの時間を長く取るために、パッと出せるものは出して『無駄な時間』をなくすようにしています。その分、子どもたちの顔を見て話せますし、子ども同士が話す時間をたっぷり確保できるようになりました」

一方で、すべてをデジタルで完結させるわけではなく、アナログの良さも最大限に活かされています。
「準備してあるものを伝える一方で、子どもたちから出てくる考えや発言はその都度違います。子どもたちがパッと言ったことや気づきはチョークですぐに書き足して、子どもたちと一緒に『その授業でもう1枚の板書を作り上げる』感覚で進めています」

また、以前感じていた「視線の散漫」という課題も、ワイードの中央投影によって見事に解決されました。
「ワイードなら黒板の中央に大きく映せるので、子どもたちは前を向いたまま視線を変えずに、集中力を持続させて授業に取り組むことができます。ずっと子どもたちと目を合わせたまま授業ができるのは、教員にとって本当に素晴らしい点です」

「教え込み」から「自ら導き出す」主体的な学びへ
ワイードという強力なツールを得て、池田先生が目指す授業の形は、従来の「教え込み」からの脱却です。
「今の授業は、昔のような教え込みではありません。今回の算数のめあても『読み取り方』ではなく『読み取る時に大切なこと』としました。子どもたち自身で答えを導き出す、自分が気づいて自分の言葉で分かるような授業を全教科で実施しています」
算数という教科においても、単に計算や答えを求めることだけが目的ではありません。
「もちろん押さえるべき言葉は確認しますが、結論に至るまでのプロセスや考え方を大切にしています。一つ結論を出して終わりではなく、最終的な日常生活に活かすところまでつなげていけるようにしています」

[東温市事例 後編]に続く
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【編集後記】
「業務の効率化」という言葉は、時に無機質な響きを持つことがあります。しかし、川上小学校におけるワイード活用の本質は、デジタルの力で「板書という無駄な時間をなくし」、そこで生まれた余白を「子どもたちと向き合う時間」や「対話の熱量」へと変換している点にあります。ワイードは、単なる資料を映す機械ではなく、子どもたちの視線を惹きつけ、教員と児童が共に思考を深めるための「温かいキャンバス」として機能していました。