2024年3月29日

【導入事例】教師一人一人の“理想の授業”を実現し、子どもたちが主体の環境へ(下市あきつ学園)

奈良県吉野郡下市町立下市あきつ学園は、令和5年度に新設されたばかりの小中一貫の義務教育学校です。下市町は、多くの地方と同じように人口減少に悩んでいますが、近隣で一番大きな市の橿原市まで車で30分程度、奈良県唯一の中核市で、県庁所在地でもある奈良市までは50分程度という立地ではありますが、少子高齢化により過疎化が進んでいる町です。

下市あきつ学園は児童生徒数194人、各学年20名前後の1クラス編成で、2学年(2クラス)を3人の教師が見るグループ担任制に加えて、5年生以上では専科教師が授業を担当するという、理想的な教育を実現するのに最適な規模になっています。既存の小中学校を統合し、下市あきつ学園に一本化することで、一気に理想的な教育環境を整えました。

あきつ学園の教室には次のようなICT機器が配備されています。

[児童・生徒]

  • 1人1台のクロームブック(1〜9年生) ※自宅に持ち帰り

[教室]

  • ウルトラワイドプロジェクター型電子黒板「ワイード」
  • ホワイトボード

[教師]

  • 教務、校務兼用のPC
  • 授業用のiPad、クロームブック

小中一貫校創設。限られた予算の中で、最良のICT設備が導入できた

児童生徒用クロームブックは持ち帰りが原則で、Wi-Fi設備のない家庭にはモバイルルーターなどの貸与制度があります。
下市あきつ学園の教室を覗いてみると、黒板ではなく同サイズのホワイトボードが設置されていることに気がつきます。

ホワイトボードとワイードの組み合わせ_下市あきつ学園
ホワイトボードとワイードの組み合わせ。ホワイトボードは板書のコントラストが高く見やすいのが特徴です。そこに映像を投影し、板書と組み合わせて使えます。投影も明るく、カーテンを閉めるような手間も必要ありません。
授業の目的に合わせたツールの選び方_下市あきつ学園(小中一貫校)
授業の目的に合わせて、最も効果のあがるツールを使うため、低学年のグループ学習のときはタブレットではなく、大きなホワイトボードシートが使われることが多いそうです。

「学校を新設するにあたって、教員の方々に設備についても議論をしていただきました。その中でホワイトボードという選択肢が出てきました」(下市町教育委員会事務局・上中翔平主事)

上中翔平主事_下市あきつ学園
下市町教育委員会事務局・上中翔平主事。学校統合をし、所管学校があきつ学園のみになったため、教育委員会事務局の職員でありながら、教員との距離が非常に近く感じます。ご自身も学童保育などの現場に出るため、子どもたちから大人気の“学童保育の先生”であり、学校にいくと子どもたちが集まってきます。

その理由は、板書がはっきりとして見やすいというものです。色覚異常がある児童生徒でも認識がしやすいため、多様な児童生徒に対応ができるというのが第一の理由です。また、当初からプロジェクターの導入を考えていたため、反射率の高いホワイトボードであれば、動画なども鮮明に投影できるという理由もありました。実際、動画を投影する場合でもカーテンを閉める必要はありません。陽の入る方向によって教室前方の蛍光灯をオフにする程度で動画もはっきりと認識できます。

教卓のPCで操作して投影映像を調整_下市あきつ学園
教師は教卓のPCで投影する映像などを操作するだけです。操作に時間が取られないので、授業のリズムも崩れません。

しかし、コストは黒板よりも高く、運用コストも高くなります。

「本学園の創設のタイミングもよかったと思います。1人1台のタブレット利用が前提になっていたため、学内にパソコン教室を配備する必要がなくなり、限られた予算の中で、最良の設備が導入できました」(上中主事)

「子どもたちの学びがまるで違う!」ICTへの苦手意識を克服した理由

ホワイトボードの導入を決めた後、プロジェクターの選定を行いました。条件は、電子黒板機能付きというポイントです。しかし、ただ電子黒板の機能を持っているというだけでは教員からも評価されなかったため、電子黒板としての使いやすさはもちろんのこと、明るい部屋でも鮮明に投影できること、普段使いするために操作が容易であることなどプロジェクターとしての機能についても比較検討していきました。

色覚異常に対応したホワイトボードマーカー_下市あきつ学園
ホワイトボード用マーカーは多色を揃えています。板書の効果を上げるという目的もありますが、色覚異常がある児童生徒にも対応ができるように配慮されています。

また、投影場所を移動させる場合、多くのプロジェクターはレールにより本体を移動させる必要がありますが、ワイードの場合は、リモコン操作で、画面移動、全画面などの切り替えができます。操作に手間を取られることなく、教師も子どもたちも授業に集中することができるのです。ここが高い評価を受けました。加えて、検討した候補の中ではワイードがもっとも明るく投影できることもポイントでした。

このようなICTツールを使って、授業のスタイルはどう変わったでしょうか。

「授業スタイルもやりたいことも変わっていません。でも、子どもたちが学びとることの深みがまるで違ってきました」(稲田大希先生)

稲田大希先生_下市あきつ学園
下市あきつ学園の稲田大希先生。理想とする授業は「教師がしゃべらない授業」。当初、ICTに苦手意識があり、活用に戸惑うこともありましたが、子どもたちの学びが深くなる体験をして以降、タブレットとワイードを使わない授業はほぼなくなったそうです。

教師が課題を与えて、子どもたちが考え、まとめて発表するというグループ学習はICTツールが入る前から盛んに行われていました。当時は、ワークシートやペンというアナログの道具を使っていたそうです。しかし、同じグループ学習でもその効果がまったく違ってきました。

「黒板にワークシートを貼り出せば、クラスで思考の共有はできます。しかし、ワイードを使うと必要な部分を拡大したり、適切なタイミングでワークシートを表示したりすることができます。さらに動画を見せることもできますよね。子どもたちの学びの入り方が以前とはまったく違ったことを実感しています」(稲田先生)

アクティブラーニングで電子黒板を活用_下市あきつ学園
子どもたちが調べて、意見をまとめて発表するというグループ学習の時間が多く取り入れられています。ホワイトボードには子どもたちがタブレットで撮影した動画が再生されています。

また、授業の準備にかかる時間も圧倒的に少なくなりました。ワークシートをPCなどでつくることは必要ですが、手元に残るため、改善をしながら使い続けることができます。また、スマートフォンでも編集ができるので、寝る前にちょっと修正するなどということもできるようになりました。

「これまで1時間かかっていたものが2分で終わる感覚です」(稲田先生)

稲田先生は、実はICT全般に苦手意識があり、当初は活用の仕方に悩むこともあったそうです。しかし、子どもたちがノートに表現した考え方を簡単に共有ができて、学びが深いことに気づいてからは、タブレットとワイードを使わない授業はほぼなくなりました。

「タブレットはICTツールというより、今の時代の筆記用具という感覚です」(稲田先生)

多様な考え方をすぐに共有。「ちょっと待ってね」の時間がほぼなくなった

タブレット+ロイロノート+ワイードの組み合わせ_下市あきつ学園
もっとも多く使われるのはタブレット+ロイロノート+ワイードの組み合わせ。児童生徒がタブレットで作業した内容をすぐにクラス全員に見せることができます。

番匠朋美先生も子どもたちの学びが深くなったことを実感しています。ICT機器が導入されていない頃は、個人用のiPhoneを使って子どもたちのノートの写真を撮り、それを教室の中のディスプレイに表示して、クラスで共有するという試みを実施していました。しかし、操作に時間もかかるため、教員がピックアップした1人の児童の考え方をクラス全体で共有するというのが限界だったそうです。

番匠朋美先生_下市あきつ学園
子どもたちの多様な考え方をすぐにクラスで共有できるようになったと感じている番匠朋美先生。理想の授業は「子どもたちが主体になって進む授業」。子どもたちが持っている能力は、大人が想像するよりはるかに高いものがあることを実感しているそうです。

「同じ問題でも、解き方や考え方はそれぞれ異なっています。現在は、子どもたちのタブレットから簡単にワイードでホワイトボードに投影できます。45分の限られた授業時間の中で、4人、5人の考え方をクラス全体で共有し、並べて表示して比較することもできます。子どもたちが多様な考え方に触れられるようになりました」(番匠先生)

電子黒板に映した内容が印刷できる_下市あきつ学園
子どもたちから出された意見を、教師がPC上で付箋にして付加をしていきます。その結果は保存できるため、印刷をしてホワイトボードに貼り、他のグループとの比較も簡単に行えます。

また、授業のリズム感も作りやすくなりました。iPhoneとディスプレイの組み合わせで、子どものノートを映し出していた時代は、操作に時間をとられ「ちょっと待ってね」と言うことが多かったそうです。それがiPadやクロームブックとワイードの組み合わせになって、その余白時間がほぼなくなりました。

「余白の時間があると、どうしてもそこで子どもたちの気が逸れてしまいます。子どもたちは45分間、ずっと集中を続けることは難しいので、私は15分単位で授業を組み立てています。意図的に弛緩の時間をつくりながら、切り替えて再度集中させるという進め方です」(番匠先生)

操作に時間を取られて、意図しない弛緩の時間が生まれてしまうと、授業の組立てが難しくなります。それがなくなり、授業がスムースに進められるようになりました。

「教師がしゃべらない授業が理想」子どもたちが主体になれる環境へ

下市あきつ学園は若い教員が多く、それぞれが理想の授業、理想の教育を実現したいという思いを持っています。稲田先生の理想の授業は「教師がしゃべらない授業」だといいます。

「子どもたちが主体に授業をつくっていく、それが理想です。自分で課題を設定し、調査をし、考えをまとめて、結論にたどりつく。教師は、あれこれうるさく言わないカーナビみたいな存在でありたい。多少道を間違えても、そっとルートを再検索してあげる。子どもたちは気がついたら、目的地に着いている。そんな授業が理想です」(稲田先生)

グループ学習で生徒が教え合う_下市あきつ学園
グループ学習では、児童生徒たちが互いに教え合い、議論をしながら、課題を進めていくのが普通の姿になっています。

今までの教育は、教師とそれぞれの子どもたちとの関係で授業が成り立っていました。そうではなく、子どもと子どもの横の関係が主体になって進んでいく授業を実現したいと言います。

番匠先生の理想の授業も「子どもたちが主体になって進む授業」です。教師は課題を設定するだけで、後は子どもたち自身がICTツールを使って、調べて表現して、それをみんなで共有して討論をする。教師はときどきヒントやアドバイスを与える存在でいいと言います。

「漢字が書ける、計算ができるという能力ももちろん大切ですが、それ以上に、身の回りにあるICTツールを使って、自分の考えを理論的に伝えられる力が必要とされています。将来、大人になって世の中を生き抜いていく力をつけてあげることが教師の使命だと思っています」(番匠先生)

下市あきつ学園には、理想の教育における好条件がそろっていました。児童・生徒数は多すぎず、少なすぎず、教育を行ううえで最適の規模になっています。また、割り箸や神事で使う三方(三宝)を扱う商人町から始まった下市町は、教育に投資する気運が強い地域で、町民の学校に対する理解もあります。さらに、学校を統合したことにより、下市町教育委員会が所管する学校は下市あきつ学園1校のみになり、教育委員会と教員の距離が近く、本音の議論ができます。学校、行政、地域が同じ方向を向いて教育を考えられる環境が整っています。その中で、下市あきつ学園では最善の設備を導入し、若い教員たちが理想の教育を実現しようとしているのです。

木材を基調とした校内の、階段兼ミニ集会スペース_下市あきつ学園
階段に見えますが、階段状のベンチとなり、ミニ集会が開けるスペースとなっています。50人ほどが階段に座ることができるそうです。

「子どもたちが主体になる授業は小学校1年生でも十分つくることができます。最初は戸惑うことがあっても、そういう体験を重ねることで、1年生が終わる頃には、教師が指示をしなくても、自分たちで相互指名をして討論をしていけるようになります」(番匠先生)

子どもたちは、大人が知らないだけで、想像以上の能力をもっていて、これまでは大人がそれを引き出す方法を知らなかっただけかもしれません。

サカワメールマガジンを購読する

電子黒板やプロジェクターに関する最新のニュースや事例、社長や社員のブログの更新情報、展示会情報をメールでお届けしています。